膝靭帯損傷
膝関節は体重を支えるだけのしっかりした安定性と同時にしなやかな動きも要求される関節です。そのために(図23)の様に膝関節の両サイドで支柱の役目をする内側側副靱帯と外側側副靱帯があり、前後には前十字靱帯(ACL)と後十字靱帯(PCL)が膝関節の動きに支持性を与えています。
(図23)
靭帯解剖正面図 靭帯解剖側面図
1.症 状
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1)膝関節の腫れや疼痛。
2)急性期では膝関節に血が貯まります(関節血腫)。
3)膝関節の不安定感(ガクガクする)がでて、運動時や階段昇降時に強く自覚します。
4)慢性期には膝に水がたまる(関節水腫)こともあります。
5)受傷時に半月板損傷を合併したり、膝が不安定なまま放置しておくと、新たに半月板
損傷などをひきおこすことがあります。
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2.検 査 |
1)エックス線検査;
骨軟骨損傷などの合併損傷の有無が診断できます。ストレスX線では関節不安定性(関
節のズレ)の定量化ができる場合があります。
2)MRI;
靱帯損傷や合併する半月板損傷の評価には必須の検査です。靱帯の走行や形態および
形状まである程度明確に描出可能です。また合併する可能性のある半月板損傷や骨軟
骨損傷などの診断にも大変役に立ちます。
3)関節鏡検査;
関節内の状況を関節鏡で直接見て診断することができます。関節軟骨や半月板の状況
も合わせて診断できます。局所麻酔で行われる場合もありますが、通常は関節鏡視下
手術を前提にした手術の中で最初に確認のための診断検査として行われることが多い
ようです。
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3.治療について | |
靱帯損傷の程度によりますが、MRI等で診断できた場合には、膝関節の装具(支持性の強いサポーター)(図24)を装着させて、早期から関節の可動域訓練をします。膝関節周囲の筋力訓練などのリハビリもしっかりします。内側側副靱帯(MCL)損傷ではそのほとんどの症例は保存的治療で治癒します。前十字靱帯(ACL)損傷では保存的に治療しても、スポーツ復帰や日常生活動作などで再受傷をきたす場合も多く、受傷後1ヶ月以降の関節鏡視下再建術が広く一般に行われています。後十字靱帯(PCL)損傷の場合は日常生活活動は支障がない場合が多く、まずは保存的治療になります。
手術はすべて関節鏡視下手術になります。手術はACL損傷の再建術が一般的です。
1)ACL再建術(図25);
断裂した前十字靱帯のかわりになる再建材料として、自分自身の膝蓋腱やハムストリング腱を用いて関節鏡視下に行われています。術後成績は安定しており、術後6ヶ月以降のスポーツ復帰をめざします。
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(図24)膝硬性装具 |
(図25)前十字靱帯再建術 |
4.薬剤について |
痛みの程度によって消炎鎮痛剤を処方します。
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5.病気について |
スポーツ外傷や交通事故など、大きな外力が加わったときに、膝を保護し安定化に役立っていた靱帯が破綻(断裂)をきたします。膝に加わる外力の方向によって、内側側副靱帯(MCL)、外側側副靱帯(LCL)、前十字靱帯(ACL)、後十字靱帯(PCL)などの損傷が起こります(図23)。外力の程度が大きいときには複合靱帯損傷といって十字靱帯を含む少なくとも2つ以上の靱帯が断裂することがあります。
内側側副靱帯(MCL)損傷は靱帯損傷の約半数を占めていると言われていますが、サポーターなどの装具とリハビリでほとんどの場合治癒します。前十字靱帯(ACL)損傷は保存的治療の成績が不良であり、一方で手術成績が向上したために、治療は再建手術がより確実で一般的になりました。患者の年齢やスポーツ活動の有無で手術を決定する場合もあります。その他の靱帯でも損傷の程度によってはまずは装具とリハビリで保存的に治療していく場合が多いようです。 いずれにしても正確な診断が必要で、その為には徒手検査とMRI検査が最も重要になります。リハビリは大腿四頭筋訓練をはじめとした膝関節周囲筋力訓練(図17)がもっとも重要です。
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